第60章 【クラヤミノナカデ】
空港に2人を残してインターハイの地へとやってきた夜、案の定、英二から電話が入った。
ずっと目に焼き付いて離れなかった。
小宮山さんを傷つけたあの人たちに怒りを露わにする英二と、震えながらもそんな英二にしっかり寄り添う小宮山さんの姿。
英二の小宮山さんへの態度は、明らかに恋愛感情からくるものなのに、この期に及んでまだ気がつかない英二に呆れつつ、それでも「小宮山だけなんだ」そうしっかりと言い切った英二が、確実に前に進み出したことに嬉しかった。
嬉しい反面、僕の役目ももう終わりかな……、そう通話を終わらせた途端、寂しさで胸が苦しくなった。
決勝前日、不安で小宮山さんの声が聞きたくて、英二と一緒にいるのは分かっていたけれど、それでも電話せずにはいられなくて……
ゴメンね、こんなときに電話しちゃって、そう様子を伺いながら謝ると、大丈夫ですよ、気にしないで下さい?、そう優しい小宮山さんは僕に笑いかけてくれた。
暫くたわいもない話をして、小宮山さんも僕と同じようにプラネタリウムのプログラムが気になっているのが分かって、でもひとりで行くのは寂しいな……そう誘導する形で一緒に出かける約束をした。
『もう切るよ』
英二の手によって切られた電話……
全く、本当に英二はカマッテチャンだな……
通話終了の文字を見つめる笑顔が影を落とした。
待ち合わせは13時だから、そろそろ行かないと……
自主練から自宅に戻ると、シャワーで汗を流す。
濡れた髪から滴り落ちる水滴をタオルで拭きながら、クローゼットを開けて待ち合わせに着ていくポロシャツを選ぶ。
一度、選びかけた黒。
その色に思わず幸村の五感剥奪を思い出し、全く、本当に嫌な技だな……そう溜め息を漏らす。
選び直したベージュのポロシャツに着替えると、出窓に移動して小宮山さんから貰った優勝祝いのアレンジメントとサボテンに水を吹きかけた。