第59章 【ドクセンヨク】
「お待たせいたしました、えっと、次は図書館ですよね」
後ろから聞こえた小宮山の声にハッとして、えー、オレ、図書館なんかヤダー、なんて文句を言いながら振り返る。
だから不二くんとの約束ですよ、そう苦笑いする小宮山に、だってオレ行きたくないもん、なんてますます唇をとがらせる。
「そのことなんだけど、小宮山さん、実は乾から連絡があってね……部のことで急用が出来ちゃったんだ」
乾から連絡なんてきてねーじゃん……
その分かりやすい不二の嘘は、当然さっきのオレとの会話から来ているのが一目瞭然で……
残念そうにする小宮山と、そんな小宮山に笑顔を向ける不二を少し離れたところから眺める。
また今度、一緒に行って下さいね?、なんて笑う小宮山に、そうだね、またの機会に、そう不二が差し障りのない返事をする。
その実現する可能性の少ない約束を申し訳なく思いながら、チラッと不二に視線を送ると、いつもの変わらない笑顔をオレに向けるから、ごめんな……、そうもう一度心の中で謝った。
「小宮山、オレ、やっぱ図書館、付き合うからさ?」
「でも、英二くん、本を枕にして寝ちゃいそうですので……」
ギクッ、なんてわざとらしい声を上げると、ギクッってなんですか、ギクッって、そう小宮山が面白そうにクスクス笑う。
小宮山と一緒なら、オレ、図書館だってどこだって、喜んで付き合うからさ……
それじゃ、笑顔で手を振る不二の背中を眺めながら、もう一度ゆっくり視線を落とす。
「あ、不二くん、待ってください!」
突然、小宮山がハッとした顔をして慌てて不二のもとに走り出す。
二言、三言、言葉を交わしたあと、不二はすげー驚いた顔をして、それから小宮山から何かを受け取っていた。