第59章 【ドクセンヨク】
「……不二に、渡したの……何?」
「あ、ブックカバーですよ、ちゃんとしたお祝いも渡してなかったし、日頃の感謝も込めて」
お祝いだったらこの間やったじゃん、そう面白くなくて、でも、真面目な小宮山だし、しかたがないか、なんて思って……
これ、もうとるよ?、そう小宮山の返事も待たずその髪留めをパチンと外す。
あ、人より苦労するんですからね、そう少し恨めしそうな顔をする小宮山を、まぁまぁ、なんて宥めながらニイッと笑うと、それからギュッと抱きしめる。
「あ、あの……英二くん、人が見てますから……」
ここはプラネタリウムのロビーで、当然人が沢山見ていて、見ない振りして通り過ぎていく人や、こんな所で嫌ね、そうヒソヒソと聞こえるように文句を言う人たちが大勢いて……
そんな人たちの視線に小宮山は気まずそうにオレの胸から抜け出そうとする。
別にいーじゃん……、そう言って抱きしめる腕に力を込めると、小宮山をすっぽりと腕の中に閉じ込める。
小宮山が小柄で本当に良かった……
オレの細い身体でもちゃんと包み隠すことが出来るから……
お願いだからさ、オレにしか見せないでよ……?
そのキレイな顔も優しい笑顔も、艶やかでサラサラな黒髪も、抱き心地のよい柔らかい身体も……
本当だったら、みんなに見せびらかしたいくらい大好きなのに……
大好きだから……いつかこの腕の中から消えてしまいそうで……
おかーしゃん……
ガキの頃のオレがそっと胸の奥底で顔を出す。
あの女とその男たちの情事の間、1人、空を見上げ、時が過ぎるのを待ち続けたあの頃……
慌てて振り払い、ギュッと小宮山を抱きしめる腕に力を込める。
英二くん……?、そう腕の中で不安そうにオレの名前を呼んだ小宮山が、そっと背中に腕を回して、それからしっかりと抱きしめ返してくれる。
だけど一度顔を出したガキの頃のオレはそう簡単に消えてくれなくて、ずっと身体の中心で震え続けていた。