第59章 【ドクセンヨク】
「……小宮山さん、グロス、とれてる」
ハッとした顔をしてトイレに向かった小宮山。
恥ずかしそうに頬を染めるその背中を不二と2人眺める。
英二にもついてるよ、そうオレの方を振り返り笑顔を向ける不二に、やっべ、なんて口を拭ってみせると、いいよ、そんな芝居は、そう言って不二はオレの目を見て静かに笑った。
開演と同時にキスをしたとき、小宮山のグロスがオレについたのは分かっていた。
分かっていてそのままにしたのはキスと同じ、不二への当てつけ。
わざとだろ?、静かに問いかけた不二に、やっぱ分かる?そう舌を出して笑うと、それから静かに目を伏せる。
「……不二、オレさ、本当に小宮山じゃなきゃ……ダメなんだ……」
「ああ、分かっているよ……」
プラネタリウムのロビーにオレと不二の声が響く。
うるさくはないけど決して静かでもないロビー、すべてのざわめきをオレたちの声がかき消した気がした。
伏せがちだった視線を上げてしっかりと前を向く。
小宮山がオレと向き合うときのように、真っ直ぐに不二の目を見つめる。
不二、本当にゴメン……
謝んないけど、絶対、声にださないけれど、だけど、心の中にあるのは大きな罪悪感……
不二の方がオレよりずっと先に小宮山の良さに気が付いていたのに……
オレが傷つけ続けた小宮山をずっと慰め支え続けていたのは不二なのに……
本当だったらオレなんかより、ずっと不二の方が小宮山に相応しいんだろうけど……
だけど、オレには小宮山しかいないから……
オレには絶対小宮山が必要で、小宮山のことだけは譲れないから……
タカさんちでの祝勝会の時とは違う。
あん時、不二に言ったのは小宮山との報告と今までのお礼。
だけど今日は違う。
今日は、オレ、不二に、釘を刺したんだ____
強い思いを秘めて不二と向かい合うと、オレと同じ目をしていた不二がいつもの笑顔になる。
安心して?もうプライベートでは誘わないから、そう笑顔に本心を隠した不二に、ん、サンキュ、そうそっと呟いて目を伏せた。