第59章 【ドクセンヨク】
不二に小宮山とのことを悪いなって思う気持ちは間違いないんだけど、それ以上にやっぱ嫌な気持ちの方が大きくて……
今日の演目のギリシャ神話なんてぜんぜん知らないし、そもそも興味すらなくて……
考えたら小宮山とオレの共通点なんてなんもなくて、それに比べて不二と小宮山は同じ趣味も多そうで、そりゃ、会話も弾むよな、なんて思って……
実際、小宮山はオレより不二と話しているときの方が断然楽しそうにしていて、そんな笑顔を見ていたら、なんでだよって腹立ってきて……
ゲームの話を振って小宮山の気をオレに向けようとしても、あっさりスルーされて、なんか別の話題をって思っても、全然出てこなくて……
今まで小宮山と2人でいるとき、なに話してたんだっけ……?
2人同時に顔を上げれば唇が触れてしまいそうなその距離に、また2人のキスシーンを思い出す。
小宮山はオレの彼女なのに……
もう我慢の限界、そう自分の中で許容量が越えたのを感じた。
「小宮山、こっち……」
開演の時間になって楽しそうに話をしながら席に並んで座ろうとする小宮山の腕をグイッと引っぱる。
2人が並んで星空を眺めるなんて、オレ、絶対、耐えらんねーもん……
別に構いませんけど……?、そう戸惑う小宮山を不二から引き離すと、そんなオレの行動に驚いている不二の目をジッと見つめる。
不二には悪いけどさ、小宮山は譲れないから……
力強く真っ直ぐに、そんな想いをその視線に込める。
いつも穏やかに微笑んでいる不二も、真剣な顔でオレをジッと見返してくる。
それはたった数秒間のことだけど、その何倍もの時間に感じた。
そんなオレ達の様子を、背中に隠した小宮山が不思議そうな顔で見ていた。