第59章 【ドクセンヨク】
人を好きになることの喜びを、愛を確かめ合う幸せを、オレに教えてくれた小宮山……
なのに、オレはそんな小宮山から、大切な一度きりの幸せを奪ってしまった。
女は男と違って身体にも心にもかかる負担が大きいのに……
恥ずかしさも恐怖も痛みも乗り越えて、それでも好きな人と一つになれる、幸せに満たされる行為じゃなきゃなんないのに……
グッと唇を噛み締めてふるえる拳を握りしめる。
もう気にしないで下さい、そう何度も笑顔で言ってくれた小宮山だけど、好きになればなるほど、気にしないなんて出来っこなくて……
いくら小宮山が許してくれたって、たとえ神様が許すって言ってくれたって、オレ、多分、一生、あん時の自分を許せそうにないや……
決して消えない、消えちゃいけない罪悪感でどうしようもなく痛む胸をおさえると、レンズ越しの世界が歪んで見えた。
ザワザワと駅から溢れてきた人混みのざわめきで我に返る。
そうだ、今は後悔している場合じゃない。
ぼーっとしてたら不二にも小宮山にも見つかってしまう。
嫉妬して遊びに行く彼女を尾行しようなんて、ほんと、かっこわるいけどさ、だけど、嫌なもんは嫌なんだから、しょうがないじゃんか……!
キョロキョロと辺りを見回すと、駅前広場の真ん中のシンボルツリーのところに不二を発見する。
人混みに紛れて近づくと、見つからないようツリーの反対側に身を隠した。
「ねえ、キミ、さっきから一人だね?」
「すぐに来るよ、ごめんね?」
突然後ろから聞こえたその会話に、また逆ナンかな?なんて思いながら振り向く。
不二に声をかける軽そうな女の声と、それをスマートに断る不二の声をすぐ近くで聞きながら、本当に不二は小宮山を待ってんだよな、そう思うと改めて胸の辺りが重くなる。
幹を背にしゃがみこんで空を仰ぐ。
大きく伸ばした枝葉の先のどこまでも広がる空の青と、沸き起こる入道雲の白。
ちぇー、なんでこんなにいい天気なんだよ……
雨でも降ってくりゃいいのに、なんて天気にまで不満を募らせた。