第10章 【ホウカゴ】
「小宮山ってさ、こう見えて実は結構ビッチなんだって!」
な、何てこと言うの……!?
思わずその言葉に肩がピクンと震え、英二くんの方に慌てて顔を向けた。
「だからさ、ちゃんと需要と供給っての?ギブアンドテイク?であって、別に無理矢理~って訳じゃなくてさ、ほーんと!」
そう彼は慌てて余計なことまで言うものだから、不二くんはますます怖い目をして英二くんを睨みつけた。
「無理矢理って、もしそれが本当ならいくら英二でも黙っていられないな」
「だー、だから違うって!」
な、小宮山!そう言って英二くんは私の方に振り返る。
振り返った彼はまた怖い顔をしていて、その目は私に「話を合わせろ」と命令していた。
「……そうですよ?」
精一杯、平静を装って英二くんに同意する。
な、小宮山もそう言ってんじゃん?そう彼が不二くんに笑いかける。
不二くんはもう一度私を見て、信じられないな……そう首を振った。
「ほんとだって、小宮山、すげーんだって!なんなら不二も今度相手して貰えよ!不二ならオレ、全然構わないし!」
机の下で震える拳を痛いほど握りしめた。
にじむ涙をこらえ、ふーっと静かに息を吐いて立ち上がり不二くんへと歩み寄る。
上目遣いで不二くんを見上げると、その腕に自分の手を添えギュッと力を込める。
それからゆっくりと背伸びをすると、彼の唇に私のそれをしっかりと重ねた。
「……続きはまた今度ね?」
ゆっくりと唇をはなして見た彼は、自分の唇をおさえながら目を見開いて私を見ていて、そんな彼に出来るだけ妖艶に笑う。
鞄と日誌を手に、内緒ね?そう人差し指を唇にあてながら微笑むと、不二くんの横を流し目で通り過ぎて教室を後にする。
その途端、目から大量の涙が溢れ出した。
不二くんにキスする私を、英二くんはどんな顔で見ていたの?
私、少しは彼の要望に答えることができたかな?
一世一代の演技の間、一度も英二くんの顔を見ることができなかった。