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【テニプリ】闇菊【R18】

第10章 【ホウカゴ】




痛い 痛い 痛い!!


何度も必死に握り拳で擦ったから、唇がヒリヒリと痛みを放つ。
いくらやっても不二くんの唇の感触が消えなくて、必死に唇を擦り続けた。


消えて 消えて 消えて!!


学園の王子様の唇を奪っといて、なんて酷い言いぐさだろうと思うけど、英二くん以外の唇の感触が気持ち悪くて、しかもそれを彼の目の前で、自分からしたことが尚更辛かった。


廊下の端まで何とか背筋を伸ばして歩いたけれど、そこを曲がった先の階段に崩れるように座り込む。
鞄に顔を埋めると、声を押し殺して涙を流した。


『なんなら不二も今度相手して貰えよ!不二ならオレ、全然構わねーし!』


その言葉を思い出し、唇以上に心がつぶれそうなほど痛んだ。
彼にとって私は所詮その程度の女で、私だけがこんなにも彼を好きで……
私は多分、本当に不二くんに求められたら、何でもない振りをして彼と身体を重ねるだろう。


私はいったいどこまで堕ちていくというの……?


そう思うとどうしようもなく涙があふれ、何度も何度も唇を擦り続けた。


「頑張ったじゃん、上出来っ♪」


気がつくと英二くんが私の横にしゃがみ込み、ニイッと笑っていた。


そんな彼は私の涙を指で拭うと、顎に手を添え顔を上に向かせて、それから赤くなった唇を親指でそっと撫でる。
そしてゆっくりと彼の顔が近づいてきたから、静かに瞳を閉じるとすぐに彼の柔らかい唇が私のそれに触れた。


不思議なことにその瞬間、あんなに嫌だった不二くんの唇の感触はすっかり消えて、大好きな英二くんに満たされていく。


唇が離れると英二くんは立ち上がり、あ、もし不二に誘われたらちゃんと応じてよね、まだ疑ってるみたいだからさ、そう笑って階段を降りていった。


私には他の人の相手をするように言って、自分は別の人を抱きに行くんだね……


こんなの、単なるオモチャだよ。
友達に簡単に貸せる程度の、なんてことないオモチャ……


もう一度鞄に顔を埋めると、しばらく声を殺して泣き続けた。

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