第58章 【ヒトリ】
「いつもは、暑いって言っても無理矢理、潜り込んでくるくせに……!」
部屋から一目散に逃げ出したネコ丸の後ろ姿を恨めしく睨みながら、本当、猫って気まぐれなんだから……、そうぽつりと呟く。
その瞬間、一瞬だけ胸の奥底をモヤッとした黒い影が過ぎり、慌てて頭を振ってそれを振り払う。
机の上から英二くんにプレゼントしてもらったチビ丸のマスコットを取り出すと、ギュッと胸の前で抱きしめる。
英二くんも気まぐれだけど、きっともう大丈夫だもん……
あんなに私のこと、好きだって態度で表してくれているもん……
ガバッとそのままベッドに潜り込みタオルケットを頭からかぶる。
英二くんの香りがする……
同じシャンプーを使っても、同じボディソープを使っても、英二くんの香りはすぐに分かる……
英二くんの声、聞きたいな……
ねえ、チビ丸、私から連絡しても構わないよね……?、そうドキドキしながらチビ丸に話しかけると、携帯を取り出して英二くんの名前を呼び出す。
だけどまだやっぱり連絡するのは怖くて、携帯としばらくにらめっこをした挙げ句、結局ため息をついてそれを諦める。
だったらせめてLINEのメッセージなら……、なんて思ってみたけれど、特にこれといった口実も見つからず、やっぱりため息を落とした。
~♪
携帯を机に置こうとした瞬間、手の中のそれが急に鳴りだして、え?って思ってディスプレイを確認すると、そこにはまさに英二くんの名前があって……
え?なんで?って慌てて思わず正座してしまうと、速く出なきゃ!、そう必死にそれを受けようとする。
するんだけれど、心臓はバクバクするし手は震えるしで、手の上で携帯が転がって余計にアタフタしてしまい……
切れちゃう、電話、切れちゃうから!!
「は、はひっ!……っう」
そう慌てて携帯を受けたものだから、思わず舌を噛んじゃって、そう変な声で出てしまい、痛いのと恥ずかしいのとで枕にポスッと頭を埋めた。