第58章 【ヒトリ】
「あら……璃音、だいぶ血色、良くなったわね……?」
そう可笑しくてクスクス笑う私に、母が目をぱちぱちさせて、いいこと、あった?なんて私の顔をジッと覗き見る。
あっ……って思って、うん、あのね……そう声のトーンを少し抑えて話し始める。
「その前に、謝らなくちゃ、いけないことがあるの……」
英二くんを勝手に泊めたこと、ちゃんと話さなくちゃ……
ちゃんと話せばお母さんは分かってくれるはずだけど、やっぱり英二くんのことを話すのは緊張するな、そう思ってドキドキする私に、じゃあ、家に帰ったらゆっくり聞かせてね?そう落ち着いた声で言った母は私の髪を優しく撫でた。
「……璃音、これ、どうしたの……?」
自宅に帰ると夕飯の準備をするという母を、大丈夫だから、とテーブルに座らせる。
冷蔵庫から英二くんが作ってくれた和食の数々をとりだすと、お皿に盛り付けて次々と食卓の上に並べていく。
そんなテーブルの上に並べられたお料理の品々を、母は目を丸くして眺めていた。
「……もちろん、璃音が作ったんじゃ無いわよね?」
「残念ながら……」
そう苦笑いして最後に温めなおした味噌汁を並べると、自分も席についてお母さんの顔を真っ直ぐに見つめた。
「あのね……、私、この一週間、ずっと好きな人に一緒にいてもらってたの……」
バクバクする。
お母さんにはっきりと言うのは恥ずかしいし、やっぱり不安にもなる。
知らないふりをして黙っていることもできる。
だけど他人が一週間も自分の家で暮らしたんだもん。
どんなに上手に隠したとしても、女ならその違和感を敏感に感じ取ってしまう。
それにご近所さんから耳にはいるかもしれない。
隠していて余所からお母さんの耳に入るより、ちゃんと自分の口でしっかり話したい。
私が頼んで、側にいて貰ったの……、そうもう一度、お母さんの目を真っ直ぐ見つめると、最後の語尾まで力強くきっぱりと言い切った。