第58章 【ヒトリ】
空港の到着ロビー、辺りを見回して隅の開いているベンチに腰を下ろす。
あとどれくらいかな……腕時計を確認しながら、フーッと大きくため息を落とす。
日本語、英語、中国語……いろいろな国の言葉が行き交うロビー、その雰囲気はあの日、ナオちゃんと再開した日と何も変わらない。
小さく震え出す身体をギュッと両腕で抱きしめる。
こ、怖い……やっぱり英二くんに一緒に来てもらえば良かったかな……?
心臓の音と周りの雑音がやけに大きく聞こえて、今度は両耳を塞いでそのまま身体を縮こませた。
♪
かすかに聞こえた短い通知音にハッとして顔を上げる。
震える手でバッグから携帯を取り出すと、ディスプレイを確認して思わず頬をゆるませる。
『小宮山、元気ー?』
ふふ、英二くん、私が震えてるの、分かったみたい……
胸のあたりがポウッと温かくなって涙がにじむ。
元気ですよ?、さっと打ち込んで送信すると、そっとディスプレイに唇を寄せた。
「お母さん、お帰りなさい」
到着ロビー、大きなスーツケースを引いて帰国した母を笑顔で出迎える。
ただいま、璃音、少し疲れが伺えるその笑顔は、たった一週間振りでも懐かしく感じるから不思議。
疲れたでしょ?笑顔で駆け寄り、そのスーツケースを母から強引に受け取る。
「長距離の移動は堪えるわ、やっぱり歳には適わないわね」
「やだ、おばさんみたいなこと言わないでよ」
もうおばさんよ、そう肩をポンポンと叩く母に、それもそうね、なんて言ってふふっと笑うと、言ったわね、そう母は私を睨む真似をするから、そんなやりとりが可笑しくて2人で顔を見合わせて笑った。