第58章 【ヒトリ】
「英二、良かったわね……全部打ち明けられる人に出会えて……」
いつの間にかオレの近くまで来ていたかーちゃんが、そう言って優しく頭をなでてくれる。
相変わらず暖かいかーちゃんの手のひらは、小宮山とはまた違った安らぎを与えてくれる。
うん、あんがと……小さく呟くと、少しだけ涙がにじんだ。
「大切にしなさいよ……?」
ぶっきらぼうだけど、優しいねーちゃんの言葉。
ん、分かってる、もう泣かせない……
今まで、小宮山がオレを想ってくれたぶん、これからはオレが小宮山をたくさん想うって決めたんだ。
いっぱい泣かせた涙のぶん、今度はいっぱい笑顔を届けるんだ。
「当たり前じゃん!、オレ、小宮山のこと、大好きだもん!」
ニイッと笑ってブイサインを作ると、なによ、この前まであんなにつき合ってないって否定してたくせに、そうかーちゃんとねーちゃんが呆れながら笑った。
自室に戻ると荷物を無造作において、ドサッとベッドに横になる。
小宮山……
目を閉じると瞼の裏に小宮山の笑顔が浮かんでくる。
大五郎を抱きしめると、ふわりと小宮山の香りがして、しくんと胸の奥を締め付けた。
ついさっきまで一緒にいたというのに、もうあの澄んだ声が聞きたい。
そのサラサラで艶やかな黒髪を撫でたい。
柔らかい頬に触れてふっくらとした唇にキスしたい。
それから夏だというのに真っ白できめ細やかな肌に触れて、思い切りその身体を抱きしめたい。
ずっと一緒にいたい、一瞬でも離れてしまいたくない。
ずっと人を好きになるなんて、バカだって、哀れだって思っていた。
でも全然そんなこと無かった。
本当にバカで哀れだったのは、自分の境遇に負けて勝手に堕落した自分。
それに気がつかせてくれたのは小宮山。
クンクンと鼻を鳴らして大五郎に残る小宮山の香りを貪るように堪能すると、ドンドンと体温が上昇していく。
ハァ……小宮山……
ため息と同時に、ギュッと大五郎を抱きしめる腕に力を込めた。