第58章 【ヒトリ】
「機嫌、直りました?」
「ん……許す」
だって、あんな幸せそうな顔、されたらさ、やっぱオレも嬉しくなんじゃん……?
ギューッて抱きしめると小宮山はちょっと苦しそうな顔をして、それから、また幸せそうに笑う。
そんな小宮山に今度はオレからキスをした。
チュッと唇に、それから頬をペロッと舐めると、小宮山はくすぐったそうに首をすくめて、それから嬉しそうにオレに頬ずりをする。
もう一度小宮山を力一杯抱きしめると、充電完了っ♪、そう声を弾ませてニイッと笑った。
「た、ただいまー……」
鍵をこっそり開けて自宅に帰る。
一週間振りの我が家はどことなく懐かしい香りがして、すーっと大きく息を吸い込むと、胸のあたりがキューっとなった。
……って、浸ってる場合じゃないっての。
また面倒なことになる前に、さっさと避難避難……
足音を忍ばせてそーっと階段を登る。
やっぱ勝手に一週間も外泊した挙げ句、電話で散々心配かけたくせに、一方的に通話を終わらせた負い目っていうかさ……
絶対、かーちゃんとねーちゃん達に怒られるのは間違いないもん。
かーちゃんは仕事に行っている時間だけど、面倒なのは大学生の下のねーちゃんで、見つかったらまたギャーギャー言われるのは目に見えていて……
「……英二」
階段を中頃まで登ったところで下のねーちゃんから声をかけられる。
ギクッと肩を跳ねさせて、ねーちゃん、ただいま~……なんて顔をひきつらせながら振り返ると、ねーちゃんはリビングを顎で差して怖い顔で睨みつけるから、首をすくめてため息をついた。
「お母さん、心配してたわよ、謝んなさい」
「……かーちゃん、仕事じゃねーの?」
「あんたが今日、帰ってくるって言うから、会社、休んだのよ……」
ふーっとため息をつくねーちゃんに、もう一度首をすくめると、やっぱちゃんと謝んないとな……そう覚悟を決めてリビングに向かった。