第57章 【カレカノ】
「大切な彼女、だから……、だから、不二、本当、あんがとね……」
そう続ける英二くんの口調は本当に真剣で、それを聞いていた不二くんも同じように真剣な目をしていて、それから、ごめんって謝っていたら、殴ってやるところだったよ、なんて何故か少し物騒なことを言いながら笑った。
あんがとね、そうしっかりと呟いた英二くんに、謝っていたら殴るところだよ、そう答えた不二くん。
私にはその意味が分からなかったけど、きっと2人にとってそれはとても意味がある会話なのだろう。
視線を合わせて笑いあうその笑顔が、2人の絆の強さを物語っているようで、やっぱりそんな友人関係をうらやましく思う。
私も今度は出来るかな……
見せかけだけじゃない、ちゃんと心を通わせられる友達……
そっと市川さんの顔を思い出して、それからギュッと胸の前で手を握りしめる。
夏休みが終わったら真っ先に謝ろう。
もしかしたら許してもらえないかもしれないけれど、それでも自分の気持ちははっきり声にしよう。
英二くんと一緒に、私もちゃんと前に進むんだから……
英二くんと不二くんとのやりとりを眺めながら、自分の過去を思い出して少しだけ切なくなる。
ギュッと英二くんのシャツの裾を握りしめてその肩に頬を寄せると、私を包み込む英二くんの腕に力が込められた。
「ヒューヒュー、英二先輩!見せつけてくれるっすねー!」
桃城くんの冷やかす声にハッとする。
我に返ると恥ずかしくて、ナワナワと身体が震えだす。
だいたい、突然、くっついてきた英二くんが悪いんだ……!
人前でのその距離がとにかく恥ずかしくて、そんな逆ギレ気味に英二くんを睨みながら、慌てて押し戻そうとしたけれど、英二くんはその腕を離してはくれなくて……
「は、離れて下さい!そもそもこんな狭いところに入ってこないでください!」
「なんでだよー、小宮山、2人じゃないと冷たい人ー?」
「英二くんが滅茶苦茶なんじゃないですか!不二くんに謝ってください!押しちゃダメです!」
そんな私達のやりとりを不二くんはクスクス笑いながらみていた。