第57章 【カレカノ】
「不二、インハイ、個人戦、優勝、おめでとう、かんぱーい!」
貸切の河村寿司、お茶の湯のみで不二くんの優勝を祝して乾杯をする。
かんぱーい、の「い」が言い終わるか終わらないかのうちに、みんな砂糖に群がる蟻のように目の前のお寿司を口に頬張る。
お店の一番端、目立たないお座敷のテーブルに1人座り、そんな光景を圧倒されながら眺めた。
「あー、桃、それオレの穴子!横取りすんなってば!」
「へん、英二先輩なんか、横取りの常習犯じゃないっすか!」
「……桃ちーん、ソレ、いったい何のこと言ってんのかなー?」
「べーつにー、誰のこととは言いませんけどねー」
鳴海さんのことだろうな……なんて思いながら、そんな英二くんと桃城くんの会話に苦笑いすると、コクリとゆっくりお茶を口に含む。
それにしても……浮いてる、私、完全に、浮いてる。
当然だけどここにいるメンバーは英二くんのテニスの仲間たちで、私以外はみんな気心のしれたもの同士、凄く楽しそうにしていて、そもそも、クラスの打ち上げだって参加したことない私は、こういう雰囲気、得意じゃなくて……
いくら私が浮いているのに慣れているとは言え、一緒に来て欲しいって言ったのは英二くんなんだから、ちょっとくらい私のこと気にかけてくれてもいいんじゃないの……?なんてこっそり英二くんを恨めしく眺める。
「大石ー、桃が苛める~!穴子ー、オレの穴子なのにー!!」
「全く、仕方がないな、ほら、俺ので良ければ食べろよ」
「やったぁ、大石、やっぱ大好きー♪」
そんな英二くんは私の恨めしい視線には全く気づかずに、大石くんに穴子を貰って嬉しそうに抱きついていた。
大石くんと言えば、最初、みんなに挨拶したときに、真っ先に私のところに来て、あ、大石ー、これが小宮山ー、なんて私を紹介してくれる英二くんの声すら無視して、あ、あの、すみませんでした!そう何故か深々と頭を下げた。