第56章 【フタリ】
「小宮山、オレのこと、好き……?」
「はい、大好きですよ……」
行為の間中、何度も英二くんは私に問いかけて、私はその度に英二くんへの想いを口にした。
何度も心の中で繰り返していた。
私、英二くんのことが、大好きです……
本人にはっきり言える日がくるなんて思ってもみなかった。
ずっと知りたかった英二くんの過去は、まるで小説や映画のような内容だった。
今まで点でしか感じられなかった過去のサインが、線になってそれから円になってぐるぐると回りだした。
私が想像していたのとは比べられないほど辛く悲しい、きっと地獄のような日常を、幼い頃の英二くんはその小さな胸を痛めながらたった1人で耐えていたのだろう。
今の家族に出会えて、引き取られることになって、凄く大切に育てられて、大好きだから、だからこそ英二くんは必死に嫌われないように笑顔を作った。
『そうそう、そうやって愛想ふりまいてな、そのうち優しい人が拾ってくれるからさ』
あの雨の日、震えるネコ丸を腕に抱きながら、英二くんはどこか辛そうな目をしながら遠い空を眺めていた。
あれは捨てネコだったネコ丸に幼い頃の自分を重ね合わせ、きっと当時の自分を思い出していたに違いない……
きっと必死だったんだ……
愛されたかったんだ……
もちろん、家族の愛情に包まれて育つうちに、作り笑顔はいつしか本当の笑顔になって、テニスに出会って素敵な仲間にも恵まれて……
だけど、突然現れた本当のお母さんにテニスを奪われたことで、忘れかけていた幼い日々を思い出してしまった……
そして、初めて女の人と交わったことで、とうとう心と身体のバランスも崩れてしまった……
初めての行為がもっと愛情を確かめ合うものだったら、結果は違ったのかもしれないのに……
だけど、相手がお母さんを思い出させる雰囲気の人で、それで女の人と自分を蔑むきっかけになってしまったんだ……
『お前は……自分の境遇に負けないで、強く生きんだぞ?』
あの時、英二くんは自分のようになるなってネコ丸に言ったんだ……