第55章 【オンナジ】チュウガクキ②
『あのね、私、菊ちゃんが好きなんだ』
『あー……ごめん、オレ、今はテニスしか考えらんねーや……』
『……そっか、やっぱりダメか、菊ちゃん、私なら大丈夫だよって、みんな言ってくれたんだけどな……』
『ほんと、ごめんな……?』
男女問わずみんなと仲良いし、テニス部でレギュラーになった辺りからは、なおさら告白されることが多くなった。
だけどあの頃は本当にテニスばっかで、彼女なんか考えらんなくて、引退してからは受験もあるし、なんて断って、受験も終わると理由は言わず断った。
別に女に興味がないわけじゃない。
思春期の男子の頭の中なんて、考えることと言ったらだいたい相場は決まっていて、オレだってそれは例外ではなくて……
男友達が集まれば、自然と話題は猥談になるし、歳の離れたにーちゃんたちがいたから、同級生より早熟な方だったと思う。
携帯片手にきわどい動画をみて興奮しては、独りで処理することだって日常茶飯事だった。
携帯の画面の先に映る女はあの日の母と同じようなものなのに、そん時は別にあんな女のことなんかちっとも思い出さなくて……
いつかオレだってその気になったら彼女作って、キモチイイコト、シテみたいって思ってたのに……
なのになんでいざ本物の女に誘われた途端、こんな不安定な気持ちになってんだよ……
恐怖と不安で心が身体が壊れてしまいそうで、帰りたい、そうガクガク震える身体をきつく抱きしめると、次々と涙が溢れてきた。
「英二くん、大丈夫……?」
コンコンと化粧室のドアがノックされて、外からそう声をかけられる。
はっとして慌てて涙を拭い、だ、大丈夫だよん、そう無理に笑顔を作って返事をする。
あのさ、オレ、やっぱ帰るからさ、そう苦笑いしながらドアを開けると、驚いた顔したその女は、緊張してるかな?、大丈夫よ、そう言って番号札がついた鍵をちらつかせて笑った。