第54章 【ウンメイノヒ】チュウガクキ①
1、2、3、4、5……、大五郎のお腹でゆっくと数を数える。
大きく息をしながら、おちつけー、おちつけー、そう自分に言い聞かせる。
95、96、97、98、99……
100!!
パチリと目を開けてニイッと笑顔で勢いよく顔を上げると、その瞬間、身体中に衝撃が走りイテテとうずくまり、苦笑いしながら一番痛みが酷い背中をさすった。
「にーちゃん!朝だよん!!」
苦笑いで二段ベッドの下を覗き込むと、まだ眠っているにーちゃんに笑顔を向けて、それからよっと飛び降りる。
また身体中に衝撃が走り、もう一度苦笑いでしゃがみこむ。
そんなオレに、英二、無理すんなよ、そう慌てて起きあがったにーちゃんが心配そうに声をかけた。
「ダイジョーブイ!オレってば、元気で明るい菊丸英二だかんね♪」
そう笑顔でにーちゃんにブイサインしながら、でもやっぱ痛いや、なんて言ってまた笑った。
「とーちゃん、かーちゃん、みんな、おっはよーん♪」
勢いよくリビングのドアを開けて元気に挨拶をする。
英二、もういいのか?そうとーちゃんが心配そうな顔で問いかけ、かーちゃんとねーちゃん達もダイニングから顔を覗かせる。
うん、もう大丈夫、心配かけてごめん、笑顔のオレに皆が安心した表情をみせる。
「みんなにもお礼言わなきゃなー、いっぱい心配かけたし」
ランキング戦も途中だったし、はやく怪我治して、またテニスするんだもんね!、なんて笑顔で朝食を頬張るオレに、みんなも笑顔を返した。
いつもと同じ、菊丸家の朝。
バタバタと忙しく賑やかだけど、穏やかな日常。
大丈夫、オレは元気で明るい菊丸英二だから、この怪我が治ったらまたすっかり元通り、そう信じて疑わなかった。
まさか既に、あの女がオレからテニスを奪っていたなんて、本当にその時は気が付いていなかった。
それからラケットを握る度に、ボールを掴む度に、コートに近づく度に……
あの女の狂気に満ちた笑顔と振り上げられたラケットが、何度もフラッシュバックしてオレを苦しめ続けるなんて
これっぽっちも思ってなかった____