第54章 【ウンメイノヒ】チュウガクキ①
「みんな、ごめんなさいね……本当にありがとう……」
「あ、いいえ、あの、英二、大丈夫でしょうか……?」
「だといいけど……あ、ううん、大丈夫よ、心配しないで?」
気が付くとオレは自分のベッドの上で必死に大五郎を抱きしめていた。
そんなオレの様子をみんなが心配しているのは分かった。
かーちゃんの声もちゃんと聞こえていた。
だけど、それに反応することが出来なかった。
心の中でずっと膝を抱えて泣き続けている幼い頃のオレが、オレ自身を自分の中にずっと縛り付けているようだった。
いや、違う、縛り付けているのはあの女との異常な日常。
その呪縛が幼い頃のオレを縛り付け、そして今のオレをも支配した。
オレは元気で明るい菊丸英二だよん
オレは元気で明るい菊丸英二だよん
オレは元気で明るい菊丸英二だよん
幼い頃から自分を奮い立たせる魔法の呪文。
目からこぼれ落ちた涙が、どんどん大五郎のお腹に染み込んでいくように、何度も自分の心に言い聞かせて擦り込んでいく。
「おい、英二、何を言っているんだ!?」
無意識に何度も繰り返すオレに、大石が不思議そうな顔で詰め寄り、そんな大石の肩を掴んだ不二が黙って首を横に振る。
「英二、今日はもう帰るよ、また明日、顔を見に来るから」
そう不二はいつもの笑顔でオレに声を掛けると、みんなを促して部屋を出ていった。
どのくらい経っただろうか。
部屋はすっかり暗くなっていて、いつの間にか涙も止まっていた。
「英二、入るわよ?」
ドアをノックしたかーちゃんが入ってくる気配がして、二段ベッドにうずくまるオレの様子を覗き込んだ。
「大丈夫?……身体、痛くない?」
痛かった、身体中がズキズキと鋭い痛みを放っていた。
あの頃と違って身体はもう大人の男と殆ど変わらないから、素手なら何ともなかっただろう暴力も、固いラケットで受けた衝撃は決して軽いものではなかった。