第10章 【ホウカゴ】
放課後の夕日が射し込む教室で、日直の私は1人日誌を書いていた。
ふと携帯にメールが届く。
この音は英二くん……と複雑な想いで画面をのぞく。
まぁ、家族以外からのメールはダイレクトメールか英二くんからなんだけど……
『今どこ?』
『教室』
『1人?』
『1人』
よけいな文章がいっさいないシンプルなメールは、私と彼の関係を表しているようで胸が痛む。
しばらくして、おまたへ、そう言って彼が現れる。
おどけて笑うその様子に思わず頬がゆるみそうになり、気づかれないように慌てて視線を戻す。
「別に待っていません」
「はは、つれねーの」
そう言って英二くんは後ろの机に座ると、後ろから両手を回し私の身体を包み込む。
彼の顎が乗せられている重みを頭に感じる。
英二くんはいつも男女問わず、誰かにくっついていることが多い。
前はそんな様子を羨ましく思って眺めていた。
あの頃の何も知らない私……
ただ眺めているだけの私……
身体だけ求められる私……
彼が望んだときだけの私……
幸せなのは、どっちかな……?
そんなことを考えていると、彼がセーラーの胸元からそっと手を忍ばせる。
「あの……」
「なになに?どったの?」
「私、生理なので無理です」
彼の手がピクッと止まり、それから、えぇー、マジ?と後ろにのけぞった。
「オレ、アレんとき嫌なんだよなー!」
「私だってお断りです」
「なんでなるんだよ~!」
「女ですから」
「つーか、最初に言えっての!」
「聞かれませんでしたので」
そう言う私に、どうしてくれんだよ~、と彼は頭をかいてふてくされる。
どうにもできません、そう日誌に視線を戻す。
すると彼はんーっと考えて、じゃさ?と私を覗き込み、それから人差し指でそっと私の唇に触れる。
「口で、シテくんない?」
そう言って私の手を引く彼は、死角の壁際まで連れて行くと、私の肩を押してそっとその場にしゃがませた。