第54章 【ウンメイノヒ】チュウガクキ①
「英ちゃん……やっと見つけた……!」
その少し高い声と口角を上げて笑う笑顔、それから酒とタバコと香水の香りは一気に時をあの幼い日々に引き戻す。
夕焼けが包み込んだテニスコートは、まるで幼い日々を過ごしたあのボロアパートのようで、バクバクと胸の動悸が激しさを増していく。
「おかー……さん……な、んで……?」
恐る恐る声にしたオレのその言葉に、お母さんって……?そうみんなが不思議そうに顔見合わせた。
やっと見つけた……って、おかーさんはずっとオレのことを探してくれていたのだろうか……?
胸に広がる不安感と嫌悪感に混ざって、そんな懐かしい感情と淡い期待が沸き起こる。
「探していたのよ?相談所や施設にも行ったりしてね、でも誰も教えてくれなくて……全く酷いわよね」
ま、捨てちゃったから仕方がないんだけど、そう言いながら、母は手にしていた月刊プロテニスを開いて、全国制覇したときに取材された写真のページを指さした。
「でも偶然見かけたこの写真を見てすぐに分かったわ、この青春学園の菊丸英二って、私の英ちゃんだって……!」
すぐに分かった、私の英ちゃん、その言葉に期待感がどんどんどんどん膨らんでくる。
もしかしたら母はずっと後悔していたのかもしれない、そう思ったら胸の中が懐かしさと恋しさでいっぱいになっていた。
なんでオレ、あんな酷い目にあわされたのに、こんな気持ちになんだよ……
「おかーさん、オレ、すげー……寂しかった……」
「本当にごめんね、大丈夫よ?もう1人にしないから」
さ、帰りましょう?そう言って母は笑顔でオレの手を引くから、へ?帰るってどこに?そう不思議に思って問いかける。
「決まってるでしょ?新しいおうちよ、パパも待ってるから」
ドクン____
その瞬間、また不安感と絶望感が襲って、オレの心臓を握りつぶした。