第54章 【ウンメイノヒ】チュウガクキ①
「あ、英二!」
家を出てすぐに、なぜか玄関から不安そうな顔をのぞかせたかーちゃんがそう声をかける。
不思議に思って、ん、どったの?って聞き返すと、……気をつけてね?、そうかーちゃんは少し戸惑いながら言った。
「何だよそれ?わざわざ追いかけてきて変なの!」
「……そうよね、お母さん、ちょっと変よね……?」
ニイッと笑って言うオレに、そうかーちゃんも力ない笑顔を返す。
普段は見せないそんなかーちゃんの様子に、大丈夫だって、そうもう一度笑顔を向ける。
「もうガキじゃないんだからさ、迷子になんかなんないし、道路に飛び出したりもしないよん!」
まだ少し不安そうなかーちゃんに大きく手を振ると、冬のキンと張り詰めた空気の中に思いっきり駆け出した。
「菊丸ビーム!ふふーん、どったの?おチビちゃん、もしかして時差ボケー?」
「……ずりーっすよ、英二先輩……なんで校内ランキング戦なのにダブルスなんすか?」
しかも、そっちはゴールデンペア、こっちは桃先輩……、そうブツブツ文句を言うおチビに、そりゃこっちの台詞だぜーっと桃が頭を抱えて空を仰ぐ。
そんな2人を横目に大石と拳を合わせながら、だってシングルスなら、手塚やおちびの独壇場じゃん?なんてニシシと笑う。
なんて本当は、もうすぐバラバラになるから、最後に大石ともう一度ダブルスをやりたいっていうのと、乾が張り切って作った変な汁なんか絶対飲みたくない!っていう思いからの苦肉の策なんだけどねん。
ちなみにオレが作ったオーダーは、オレと大石、おチビと桃、乾と海堂、不二とタカさん、でもって、手塚と堀尾、カツオとカチロー。
手塚が堀尾なのは、余った同士ってのと、手塚のハンデってわけ。
ま、オレと大石のゴールデンペアには誰も適いっこないけどね。
冬の済んだ空気の中、久しぶりに揃った大切な仲間達とのテニスに、心の底から笑顔だった。