第53章 【キクマルケノヒビ】ヨウジキ⑤
初めまして、英二くん、そう初めてかーちゃんと会ったときに感じた優しい笑顔……
お帰りなさい、そうこの家に引き取られてきたとき、迎えてくれた時の笑顔……
玉子が好きだとおじさんに何気なくいった一言で、オムレツを作って歓迎してくれたあの日の温かい笑顔……
同じ布団で抱きしめてトントンしてくれたとても安心できる笑顔……
とーちゃんだってそうだ、おかーしゃんに捨てられたと初めて知ったとき、公園の茂みの中でうずくまるオレを真っ先に見つけてくれた……
肩車をしてくれて、施設に何度も足を運んでくれて、それから、家族になろうって言ってくれた……
喧嘩しながらもいっぱい遊んでくれる兄弟たち……
働くかーちゃんのかわりに、オレや兄弟たちの面倒をみてくれるじーちゃんとばーちゃん……
おかーしゃんは大好きだけど、本当にオレのことを大好きでいてくれるのは……
オレが今、一番大好きなのは……
今の家族じゃんか……
かーちゃんの涙と、とーちゃんの寂しそうな背中をみていたら、本当の母親を恋しく思うあまり、大切な今の家族を悲しませている自分に涙が溢れた。
部屋に戻ると下のねーちゃんが、自分の部屋から大五郎を抱えて来て、ほら、そうオレの鼻先に差し出した。
凄く大切にしていて、いつも触らせてもらえなかったから、不思議に思って首を傾げた。
「英二にあげる」
「へ?、だって……」
戸惑って受け取れずにいるオレに、早くしてよ、そうねーちゃんは大五郎をぐいっと押し付けた。
「いいの……?」
「いいの!だって私、英二のおねーちゃんだから、おねーちゃんは弟に優しくするものだから!」
だから、英二も早く元気になってよね、そうねーちゃんは頬を膨らませてフンっとそっぽを向いて、そんな下のねーちゃんの頭を上のねーちゃんが優しくなでた。
「あんがと、オレ、もう、泣かない……」
大五郎に顔を埋めると、優しいみんなにまた涙が溢れた。