第53章 【キクマルケノヒビ】ヨウジキ⑤
まだあったはず……
部屋のチェストから懐かしい絆創膏を取り出すと、適当な場所にちぎって貼り付けた。
胸の痛みには効かないことはもうイヤというほど分かっていたけれど、それでももう一枚別の場所に貼った。
あっという間にあの頃のように全身が絆創膏だらけになった。
「おかーしゃん……」
その日もテレビの中に母を捜し、映っていないと分かると肩を落とした。
空を見上げると、あの頃の母との生活を思い出して胸が苦しくなった。
寂しくなると手を伸ばして母を求めた。
その手が掴まれることはないと分かっていても伸ばさずにいられなかった。
「英二、ちょっと、おいで!」
その日も子供部屋でぼーっと空を眺めていたオレに、兄弟たちが声をかけた。
なに……?、そううつろな目で振り返ると、みんながオレを少し怖い顔でみていた。
なんだろう……、そう思いながら、シーッと唇に人差し指を当てて手招きするみんなに付いていくと、みんなはとーちゃんとかーちゃんの寝室の前で立ち止まり、ドアの隙間を覗くように指差した。
「やっぱりどんなに英二を大切に思っていても、本当の母親には適わないのね……」
「それは覚悟の上じゃないか……」
「そうなんだけど、やっぱり私じゃダメなんじゃないかって……」
「大丈夫、おまえの愛情だって英二にはちゃんと届いているよ」
目を見開いてその光景を眺めた。
オレのせいで涙を流すかーちゃんと、かーちゃんの肩を抱いて慰めるとーちゃん。
ゆっくり時間をかけて家族になっていこう、そう諭すようなとーちゃんの言葉が耳に残って離れなかった。
「英二、今の英二のお母さんは、かーちゃんだろ?」
「お父さんとお母さんと、おじいちゃんとおばあちゃんと、私達、みんな英二の家族でしょう?」
兄弟たちの言いたいことは痛いほどよく分かった。
自分の前では決して笑顔を絶やさなかったかーちゃんの涙に、胸がズキンと痛んで苦しくなった。