第53章 【キクマルケノヒビ】ヨウジキ⑤
こうして大五郎は下のねーちゃんのものからオレのものになった。
おかーしゃんのことを思い出して泣きたくなったり苦しくなったりすると、大五郎を抱きしめることで安心できた。
それでも涙が止まらないときはそのお腹に顔を埋めた。
大五郎はオレの流す涙をそのフカフカのお腹で全部吸い取って隠してくれた。
身体中に貼り付けた絆創膏は、一枚だけ鼻の頭に残してあとは全部はがした。
一枚だけ残したのは、心の痛みにはきかなくても、貼っていることでどこか大五郎と同じように安心することができたから。
それから人の温もりに触れているとやっぱり安心できて、ことあるごとに誰かにくっついて過ごした。
みんな鬱陶しい時もあるだろうに、ちゃんとそんなオレに付き合ってくれるから、なおさらみんなに抱きつくのが好きになった。
全てはおかーしゃんに捨てられた不安と寂しさを紛らわすため……
それから、今の家族に心配掛けないように、自分の中ですべてを消化できるように……
その一方で、菊丸家に引き取られてから定期的に通っていたカウンセリングには、行くのを嫌がるようになった。
相談員のおねーさんや先生に色々話を聞かれると、どうしてもおかーしゃんのことを思い出して苦しくなるし、忙しい両親の手を煩わせるのも嫌だった。
一番いやだったのは、オレとは別室で話をしていたかーちゃんの目が、いつも涙で赤くなってることだった。
オレのせいでかーちゃんがまた泣いているのが耐えらんなくて、もう大丈夫だから行かないもん!そう頑なに拒否するようになった。
本当に大丈夫だと思ってもらえるように、辛いときほど元気で明るく振る舞った。
辛くなると大五郎を抱えながら、オレは元気で明るい菊丸英二だよん、そう何度も呪文のように唱えて自分に言い聞かせた。
元気で明るいが代名詞の菊丸英二は、こうして出来上がっていった。