第53章 【キクマルケノヒビ】ヨウジキ⑤
「おかー……しゃん……」
そのテレビ番組を見てから、オレは毎日抜け殻のようだった。
毎日、ボーッとして空を眺め、時々思い出したかのように涙を流した。
一緒に遊ぼう、そう誘う兄弟たちや幼稚園の友達の声も耳には届かず、ただ一人、膝を抱えて座っていた。
「え、英二、なにか食べたいものある?今夜の夕飯、英二の好きなもの、作るわよ?」
「……おかーしゃんの買ってくれたパン……」
「じゃ、じゃあ、今度のお休み、どこかに遊びに行こうか?どこがいい?」
「……おかーしゃんのところ……」
「そ、それは……」
かーちゃんが気を遣っているのはわかったけど、かーちゃんのことは大好きだったけど、その時は本当の母親のことしか考えられなくて、ただ母が恋しくて会いたくて……
一度溢れ出した里心はなかなか消えることはなく、ただ毎日、テレビ画面のやつれた母を思い出していた。
日に何度もテレビをつけては、母の姿を探し求めた。
どこにも映ってないとわかると、がっかりしてため息を落とした。
『いつも息子がいるせいで幸せになれなかった。置き去りにすれば死ぬと思った。一度死んだか確かめにいったらまだ生きていた。少し迷ったけどもう一度置き去りにした。
交際相手のマンションにいるところを逮捕された時、そう供述した____受刑者は……』
母の映像の向こうで流れていたアナウンサーの声。
当時は意味なんて理解できなかった。
だけど、理解できたところで内容なんか関係なかった。
そんなこと、自分が一番よく分かっていたのだから……
会いたくて、会えなくて、好きなのに、好かれなくて……
平気だと思っていた。
捨てられたと分かったとき、素直にその事実を受け入れられた。
だけど、また母の顔を見てしまってからは、胸が苦しくてどうしようもなかった。