第53章 【キクマルケノヒビ】ヨウジキ⑤
「ほらほら、英二くんは疲れているんだから、今日はもう遅いし、明日からゆっくり仲良くなりなさい」
もう寝る時間よ?、そう部屋に入ってきたかーちゃんに連れられていかれたのは、とーちゃんとかーちゃんの部屋。
今日はここで一緒に寝ようね、そういう2人に戸惑って、それから小さく頷いた。
だけど、ほら、英二くん、真ん中においでって布団を捲って貰ったけれど、この状況で脳裏に浮かぶのは母親と男たちのあの行為の光景で……
ドクン、ドクン____
大きく心臓がなりだして、胸の辺りが苦しくなった。
母親の淫れ喘ぐ様子と、さっさと外に行けよ、そうオレを睨みつける男の怖い顔……
不安感が胸一杯に広がっていく。
「外……行かなくて……いいの?」
そう恐る恐る問いかけると、2人は目を見開いて、それから、あっ、って気が付いたように顔を見合わせて、英二くん……そうオレの名前を呼んだかーちゃんに、ギュッと抱きしめられた。
「英二くん、うちではね、ううん、うちだけじゃなくてどこのおうちでもね、そんなこと、気にしなくていいんだよ?」
ほんと……?、そう抱きしめられた腕の中でそっとかーちゃんの顔を見上げると、ほんとだよ、そう言ってかーちゃんは優しく髪を撫でてくれながら、一緒にベッドに横になってくれた。
そのまま背中をトントンとしてくれると、騒がしかった胸のドキドキが落ち着いていき、全身を襲う不安感が、少しずつ薄らいでいくのを感じた。
かーちゃんの手……暖かい……
そのゆっくりと繰り返される手のリズムに意識を集中しているうちに、そのままウトウトと微睡みはじめた。
フワフワする意識の中で、優しい家族の一人一人の顔を思い浮かべた。
みんな優しい……嫌われたくない……
おかーしゃんにもその男達にもいつも嫌われて、とうとう捨てられたオレを家族にしてくれた優しい人達……