第53章 【キクマルケノヒビ】ヨウジキ⑤
「英二くん、こっち、こっち!」
ねーちゃんたちに手を引かれて連れて行かれたのは、きれいに飾り付けされたダイニング。
テーブルいっぱいに並んだ、美味しそうな匂いと湯気のたつ料理。
みんながそれぞれの席に座り、嬉しそうな笑顔でオレを見ている。
「お母さん、今日は頑張ったのよ?英二くん、玉子好きって聞いたからオムレツにしてみたの」
優しくて笑顔が耐えない家族と温かい食事……
自分には手に入らないものと諦めていた、でも羨ましくて憧れ続けたその光景がそこに広がっていた。
ひとくち、口に含んだオムレツはとてもフワフワで、口の中でとろけてなくなった。
美味しい……
その空間の全てがキラキラ輝いていて、自然と涙があふれた。
美味しくない……?、そう不安そうな顔をする家族にフルフルと首を横に振った。
「これ、大好き……」
ゴシゴシと涙を拭いて口いっぱいに頬張った。
「英二くん、お家の中、案内してあげる!」
夕飯を食べ終わると、ねーちゃんたちが家中を案内してくれた。
始めてみる一戸建ての構造は新鮮で、どの部屋もおもしろかった。
にーちゃんたちの部屋では、中学でテニス部に入っているという上のにーちゃんが、ラケットに触らせてくれて、下のにーちゃんからは、もういらないからとおもちゃをわけてもらった。
最終的に連れて行かれたのは、ねーちゃんたちの部屋で、にーちゃんたちの部屋もそうだったけど、学習机が2つ、それぞれのランドセル、大きな二段ベッド。
ふと目に留まった大きなクマのぬいぐるみ。
自分と同じくらいの大きさに胸がそわそわした。
そっと触れようとすると、小さいねーちゃんが、いいでしょ!入学のお祝いにお父さんとお母さんに買って貰ったの!、そう言ってそのクマのぬいぐるみを抱っこした。
「ねえ、貸してあげなよ。英二くん、触りたがってたよ?」
「ダメ!大五郎は宝物だもん!絶対ダメ!」
ギューッと抱っこして離さないねーちゃんに、大五郎……そうぽつりと呟いた。