第52章 【キクマルエイジ】ヨウジキ④
それから、数日して無事に病院を退院したオレは、そのまま相談所のおねーさんに連れられて、ある施設へと向かった。
そこは身寄りのない子供たちや、オレと同じように事情があって親と一緒に暮らせなくなった子供たちが大勢暮らしていた。
「あなたが英二くんね、ここは沢山のおともだちもいるし、もう寂しくないですよ」
「英二くん、おねーさんは一緒にいられないけれど、先生たちの言うことをちゃんと聞いて、お友達と仲良くね?」
相談所のおねーさんと別れると、とたんに不安になった。
最後に握手、そう手を差し出して少し寂しそうに笑ったおねーさんの笑顔は、おかーしゃんの最後の顔に少し似ていた。
ああ、もうおねーさんには会えないんだな……、そうなんとなく直感して俯いたままその手を離した。
部屋に案内されて1人になると、手持ちの少ない荷物から絆創膏を取り出した。
ビリッと破って鼻先にペタッと貼り付けると、ほんの少しだけ不安な気持ちが紛れたような気がした。
その日から先生方には、生きていく上で基本となる生活習慣や、他の子との関わり方などを徹底的にたたき込まれた。
そんな厳しい躾や、大勢の子供たちとの規則正しい生活環境の集団生活は、ずっと母と自由気ままな生活しか知らなかったオレにとっては、ただただ騒がしく、苦痛なものでしかなかった。
「先生ー、英二くんがまた寝てるよー!」
「英二くん!ほら、起きなさい、こんな時間に寝たら夜寝れないわよ!!」
なんで夜に寝ないといけないんだろう?なんて思いながら、ぼーっとする頭で園庭を歩いていると、やぁ、英二くん!そう突然声をかけられて、んー……って振り向いた。
「元気にやってるかい?……って、なんか元気がないなぁ?どうしたのかな?」
「……寝ちゃダメって言われた」
振り向いて見ると、声をかけてきたのはあの肩車をしてくれたおじさんで、おじさんはフェンス越しに、それは大変だなあー、なんて笑ってくれた。