第52章 【キクマルエイジ】ヨウジキ④
「英二くん!?キミ、英二くんだろ?」
後ろから突然聞こえた男の人の声。
……誰?、チラッと視線だけ向けて確かめると、それはさっきおばさんたちと話をしていた男の人。
コクリと頷いてまた前に視線を戻した。
「居ました!こっちです!」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
そうバタバタと集まってくる足音。
良かった、本当に……口々に聞こえる安堵の声。
「英二くん……!ハァ……やっと、見つけた……!」
相談所のおねーさんが息を切らしてそう言った声は聞こえていたけれど、オレの視線はずっと親子を見続けていた。
「本当にありがとうございました。英二くん、急に病院から居なくなったらみんな心配するでしょ?」
アパートのおばさんたちも一緒に探してくれたのよ、そうオレの肩に手を置きながらおねーさんは少し怖い顔をした。
ごめんなしゃい……そう上の空で呟いた視線の先には楽しそうな親子連れ。
いつもうらやましく思って見ていた。
「ねえ……オレ、おかーしゃんに捨てられたんでしょ……?」
ポツリと呟いたその言葉は、辺りの空気を一瞬で凍らせた。
何、言って、るの、そうしどろもどろの誰かの言葉を、オレ、施設に行くの……?、そう呟いて打ち消した。
「英二くん、もしかしておばさん達の話、聞いてた?」
「ん……、大丈夫だよ、平気だから」
オレに知られたことを気にして、気まずそうな顔をするおばさん達に頷いて、それからまた楽しそうな親子連れに視線を戻した。
「知ってたから……おかーしゃん、オレのこと、きらいなの……本当はずっと知ってたから……
だけど、オレは大好きだから……いっぱい叩かれても、追い出されても……凄く、大好きだから……
だから、やっぱり本当は、ずっとおかーしゃんと2人が良かったな……」
ポロポロと頬を零れ落ちた涙が濡らした。
楽しそうに遊ぶ親子連れの姿が歪んで見えなくなった。