第52章 【キクマルエイジ】ヨウジキ④
……あ、そっか……
オレ、おかーしゃんに、捨てられたんだ……
帰ってこなくなった母に最後にあったときの、あの「ごめんね」……
おかーしゃんは?、そのオレの質問に言葉を濁して答えをはぐらかし続ける大人たち……
それから、すっかり何もなくなったアパートの部屋……
小さな頭は不思議なくらい、ストンとその残酷すぎる現実を受け入れた。
「すみません、私、こういうものですけど……」
「菊丸____?、ああ、また、新聞記者なの……次から次と……」
「お騒がせして申し訳ありません、少しお話を聞かせていただけますか?」
おばさんたちに話しかけた男の人。
チラッと視線を向けて、それからトボトボと歩き出すと、おばさんたちとは反対側からアパートの敷地を抜ける。
裸足のまま病院のパジャマ姿で歩くオレに人々が振り返る。
声をかけてくれる人が何人もいたけれど、そんな人々の声は聞こえていなかった。
病院に戻ろうか……そう一旦病院にむけた足を止めると空を眺める。
おかーしゃん……自然と足はあのいつも時間をつぶしていた公園に向かっていた。
公園には何組かの親子連れが遊んでいた。
いつものように茂みに隠れてその様子を眺めた。
休日だったのだろうか?その日はお父さんも一緒の家族連れが多かった。
普段はお母さんと一緒に遊具で遊んでいる子供たち。
お父さんが一緒だと、少しその遊び方も変わってくる。
父親の身体を使った遊びに、キャーキャーと元気いっぱいはしゃぐ子供たち。
「お父さん!肩車して!」
「お姉ちゃんずるい!僕が先だよ!」
それを少し離れたところから眺めて、幸せそうに微笑えむ母親。
「お母さーん♪」
肩車を弟に譲った姉が母の元に駆け出して、その胸に思い切り飛び込む。
ギュッとその腕に抱きしめられて、嬉しそうに満面の笑みになる。
「おかーしゃん……」
ポツリと呟いてまた母のぬくもりを思い出した。