第52章 【キクマルエイジ】ヨウジキ④
チュンチュンと雀の鳴き声で目が覚めると、もう辺りはすっかり明るくなっていた。
寝ぼけ眼をこすって、まだぼーっとする頭を働かせると、もう一度アパートの横に回って中をのぞき込んだ。
……なんで……?
外の明かりが差し込んで見えた部屋の中の様子に愕然とした。
あんなに雑然としていた部屋の中はすっかりきれいに片づけられていた。
片づけられていた、なんてもんじゃない。
ずっと敷きっぱなしの2つの布団、空き缶と山盛りの灰皿がのった小さなテーブル、古いテレビ、オレが食べたパンのゴミ……
何もない、ガランとしたただの部屋……
なんで?そう目を見開いてしばし立ち尽くした。
「あら、おはようございます」
「おはよう、やっと静かになったわね、取材カメラも来なくなって」
「本当、本当」
ふとそんな話し声に我に返る。
こっそり壁に身体を隠してそっと覗き見ると、そこにいたのは隣の部屋のおばさんだった。
「それにしても可哀想よね、何くんだっけ?」
「英二くんよ、子は親を選べないって本当よね……」
ふと自分の名前が聞こえてドキッとして、思わず壁の陰に身を隠した。
もう一度のぞき見ると、隣の部屋のおばさんはオレに気が付かないまま、他のおばさんと話をし続けた。
「前から心配してたのよ……凄く痩せてるし、虐待されているようだったから……」
「山田さんが児童相談所に通報したの?」
「ええ、何度かね……、あの日ももう何日も母親が帰ってきた気配がないのに、微かに英二くんの泣き声が聞こえたから……」
初めて壁が薄いのが役に立ったわ、なんて立ち話をする2人の会話の内容はよく理解できなかった。
だけどなぜか胸騒ぎがして、ザワザワする胸をギュッとおさえた。
「あの子、これからどうなるのかしら?、母親に捨てられて……」
「そうね……、他に身寄りもないみたいだし、施設に行くしかないんじゃない?」
捨てられて……?
そのおばさんたちの言葉に、ドクンと大きく心臓が脈打った。