第51章 【ハハコイ】ヨウジキ③
次の日、いつもの時間になっても母は、帰ってこなかった。
前にもあったことだから、特に気にもとめずに食パンを食べてゴロゴロして過ごした。
そのまま夜になり、少し心配になった。
明日は帰ってくるよね……?
そう不安な思いで小さな窓から月を眺めた。
でも次の日も、その次の日も母は、帰ってこなかった。
ガタンとドアポストにチラシが投函される度に、母が帰ってきたのかと何度も玄関まで確かめに行った。
また違った……そう毎回、肩を落として部屋に戻った。
一袋あった食パンが無くなって、買い置きのお菓子も無くなって、仕方がなく水を飲んで飢えをしのいだ。
おかーしゃん……明日は帰ってくる……?
昼夜問わず母のことを思って、部屋の小さい窓から空を見上げた。
何度目かわからない朝日がのぼる頃、ガチャっと部屋の鍵が開いた音がした。
おかーしゃん……?
ハッとしてヨロヨロとなんとか玄関まで歩いて出迎えると、ドアからそっと顔を覗かせた母に安堵して笑顔を向けた。
「おかーしゃん……お帰りなしゃい……」
大きな声は出なかった。
その代わり嬉しくて笑顔と涙がこぼれ落ちた。
「もう置いてかないでよ……1人はヤダよ……」
そう力なく言ったオレに母は、英ちゃん、待ってたの……?、そう気まずそうに声をかけた。
「ん、お腹、空いた……」
母は、持ってきたコンビニの袋から、食べていいわよ、そう言って菓子パンの袋を手渡してくれた。
力が入らなくて袋が開かなくて、歯で破ろうとしたら、貸して?そう言って母がその袋を開けてくれた。
優しい母が嬉しくて、菓子パンを貪りながらまた涙が溢れた。
「……英ちゃん、美味しい?」
「ん、おい、ひい……よ」
口一杯に頬張ったまま母の顔を見上げて笑うと、母は力なく笑った。
いつぶりかのオレに向けられた母の笑顔が凄く嬉しくて、それから、凄く安心してウトウトと眠りについた。
「英ちゃん、ごめんね……いい子で待ってなさいね……」
意識を手放す前に、そんな母の声が聞こえた気がした。