第51章 【ハハコイ】ヨウジキ③
目が覚めると母はもういなかった。
テーブルの上にはまたパンの袋がひとつと、オレが好んで食べるお菓子の袋が数個置かれていた。
……おかーしゃん?
ドクン、ドクン、また嫌な予感がして不安で胸がざわめいた。
「英ちゃん、ごめんね……いい子で待ってなさいね……」
あれは夢……じゃない、本当だったんだ……
膝を抱えて泣き続けた……
おかーしゃん……今日は帰ってくる……?
明日は……?明後日は……?
何度、日が昇り、そして沈んだだろうか……
もうそんなこと、どうでも良かった。
早く母に会いたい、ただそれだけを思って息をしていた。
生きている、なんてあれは言えなかった。
ただ息をしているだけ……
母が残していったパンやお菓子を食べ、水を飲みながら、ただ息をしていた。
食べ物がなくなった。
前はこのくらいで母が帰ってきてくれたから、もう少しかな……?
だんだん身体が動かなくなってきた。
部屋の空気が淀んで行くのを感じた。
どこからともなく沸いて出たコバエが、体中にまとわりついてきたけれど、それを何とも思わなくなった。
帰ってきたときにすぐに母に会いたい……
這うように玄関へと移動して、ドアが見えるように横になった。
涙はとっくに出なくなった。
どうして帰って来てくれないの……?
オレのことスキ?、何度聞いてもはぐらかされたその答え。
本当はわかっていた……
おかーしゃん、オレのこと好きじゃないから、もういらないんだね……
だけど、オレはおかーしゃんが大好きだよ……
疲れた……
何もしていないのに、凄く疲れた……
ピンポーン、インターフォンがなった。
おかーしゃん……?
母が帰ってきてくれたんだと思った。
開けなきゃ、そう思ったけど身体が動かなくて、そのうちガチャリと鍵が開く音がした。
ああ、おかーしゃんが入ってくる……
おかーしゃんにやっと会える……
そう安心した途端、目の前がサーッと真っ暗になって、そのまま意識を手放した。