第50章 【フアンナオモイ】ヨウジキ②
走って家に帰った。
どうしても確かめたかった。
急いでアパートの敷地に駆け込むと勢いよくドアを開けた。
「おかーしゃん!!!」
「あ、ああっ、あん、もっと!、もっと激しく……って、え、い、ちゃん?」
しまった、ハッとして身体を硬直させた。
ついドアの前で中の様子を確かめるのを忘れてしまった。
勢いよく飛び込んできたオレに、驚いた顔でこちらをみた2人は、気まずそうな顔でそそくさと離れた。
「チッ、なんだよ……、こんなタイミングで帰って来やがって!!」
男は舌打ちして母から離れると、なんか萎えちまった、そう言いながら頭をかいて、それからタバコにシュボッと火をつけた。
どうしたらよいかわからず俯いていると、その男はこちらに近づいてきて、オレの前で立ち止まった。
どうしたんだろう?、不思議に思って顔を上げると、その瞬間、オレの周りの空気が勢いよく揺れるのを感じた。
ぱん!!
派手な音がしたと思ったら、男が自分から遠ざかっていくのが見えた。
あれ?そう思った次の瞬間、小さなオレの身体は数メートルほど吹っ飛び、アパートの壁に思い切り背中を強打していた。
「ちょっと、何もそこまで!!」
母の慌てる声が聞こえた。
頬がジンジンと痛み出し、男が離れていったわけじゃなく、自分が叩かれて吹っ飛んだことを理解した。
段々と増していく頬と背中の痛みと、そんなに思い切り叩かれたショックから、次々と涙が溢れだした。
「おかーしゃん……痛い……」
恐る恐る近づいてきた母に、思わず助けを求めた。
大丈夫?、そう抱きしめて貰えるんだと信じて疑わなかった。
「だいたい、俺は前からこのガキが気に入らなかったんだよ、全く懐かないどころか、笑いもせずに伺うような目で見て来やがる」
そう言ってオレを見下ろす男の目はとても冷たい氷のような目をしていた。
おかーしゃん、もう一度母を呼んで手を伸ばした。
だけど、母はオレのその震える手を掴もうとした次の瞬間、躊躇いがちにその手を引っ込めた。