第50章 【フアンナオモイ】ヨウジキ②
「……まったく、朝から嫌になっちゃうわよ……ってあら?」
耳をふさいでうずくまっていると、隣のドアが開いて中からうんざりした顔のおばさんがゴミ袋を手に出てきた。
えっと、英二くん、だったかしら?、そうオレの顔を見て声をかけてきたおばさんに、どうしたらよいか解らずただ黙って頷くと、部屋の中から一層大きな絶叫が響き渡った。
「ほんと、いい加減、どっか引っ越してくれないかしら……って、子供に罪はないわね……あら、英二くん?」
母以外の人と話なんて殆どしたことなかったし、どうしたらよいのか解らなかったし、母のあのコエが近所中に響いていることが恥ずかしくて、慌ててそこから逃げ出した。
逃げ出したところで自分が行く場所なんかどこにもなくて、暫くうろうろした後、近くにあった公園にフラフラと入っていくと、遊具で遊んでいる子ども達を避けて近くの茂みに潜り込んだ。
「黙って出てきて、おかーしゃんにまた怒られるかな……」
ポツリと呟いて何となく空を見上げた。
茂みの中から見た空は、部屋の小さな窓から見るそれと違って凄く大きくて、緑の葉っぱ越に見えた真っ青な空がとても印象的だった。
「お母さん!こっち、こっち!早く来て♪」
「あ、けいくん、急に走ったら危ないわよ!」
おかあさん、その言葉に反応して遊具に視線を向けると、沢山の親子が楽しそうに遊んでいて、1人の男の子が走り出した途端、躓いて転んだのが見えた。
「うわああん、痛い、痛いよぅ!!」
「だから言ったでしょ、急に走ったら危ないって……」
そう言って転んだ男の子のところに駆け寄った母親は、子供を起こしてあげるとパンパンとその身体についた砂を払ってあげた。
「大丈夫、大丈夫、ちょっと血が出ただけだから」
「でも痛いもん!うわああん!!」
まだ泣き止まないその男の子に、母親は優しく微笑んで、だったらおまじない、してあげるね?そう言ってポケットから絆創膏を取り出した。