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【テニプリ】闇菊【R18】

第49章 【ハジマリノキオク】ヨウジキ①




「だって……そんな……お母さん、凄く明るくて素敵な方だったじゃないですか……」


そう目を見開いて、それから信じられない様子で小宮山は視線を泳がせる。
そうだよな……、小宮山、かーちゃんと直接会ってるし、こんなこと、信じらんないよな……


まあ、会ったことなくても、こんな話、簡単に信じらんねーだろうけど……
そうあざ笑いながら小宮山に視線をむけて、ん、だからさ……、そう小さく呟いた。


「かーちゃんは……、ううん、とーちゃんも兄弟たちも、みんな、クソビッチに捨てられたオレを拾って育ててくれている、心優しい家族……」


ドクン、ドクン____


小宮山の胸の鼓動がどんどん大きくなっていく。
それと反比例して、オレの鼓動は先程までと打って変わって、何故か冷静に、すっと落ち着いてくる。


「小宮山、聞いたじゃん?、なんで三男なのに英二かって……あれの本当の答えは……『養子だから』」


小刻みに震える小宮山の手をしっかりと握りしめる。


「オレがガキの頃だからさ、小宮山だって当然子どもだったし、記憶にないかも知んないけどさ、結構、大きなニュースにもなって、日本中、大騒ぎだったんだってさ……」


それは確かに自分の暗い過去、苦い記憶。
だけど、覚えている光景はどこか他人事で、まるでテレビ画面をみているよう……
いつもと違って、その暗い闇の底から沸き起こる不安や恐怖は感じられず、ただ淡々と言葉にしていく……







物心付いたときには、母親と2人、古い六畳一間のボロアパートで暮らしていた。
築数十年、六世帯の小さなアパートの西日があたる一階角部屋。
父親の顔は知らない。
母親が結婚していたのかも知らない。
そもそも、あの女自身、オレの父親が誰なのか解ってんのかも知らない。


祖父母なんてのにも会ったことがなかった。
多分、本来なら幼稚園や保育園に行ってる年齢だったけど、それにも行ったことがなかった。


だいたい、それらの存在すら知らなかった。


夕方になると分厚い化粧と派手な服で出掛けて、明け方、ハイテンションの千鳥足で帰ってくる母親と、ボロくて狭いアパート、その小さな窓から見える景色。


幼くて何も知らない当時のオレは、それらが世界のすべてだった。

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