第49章 【ハジマリノキオク】ヨウジキ①
「あ、あの……英二くん、無理に話さないで……」
さっきまでただひたすら、優しくオレの髪をなでてくれていた小宮山の態度が変わり、心配とも不安ともとれる顔つきでオレのことを見下ろしている。
ああ、オレが言おうとしていること、気が付いたんだな……
ほんとはすげー気になってるくせに、オレの事を心配してくれる小宮山に、改めて聞いて貰いたいと強く願う。
いんや……聞いて……?、そう押し寄せる深い闇の恐怖に堪えながら胸を押さえて、涙に負けないように小宮山の目をしっかりと見つめ返した。
今なら……、違う、きっと、今じゃないと、打ち明けられないから……
小宮山には、全部、知って貰いたいと思えたから……
「小宮山……前さ、あの弁当一緒に食べたとき、オレの母親がどんなやつか聞いたじゃん……?」
そう突拍子もない事を言い出したオレに、少し戸惑って、それからちょっと考えた小宮山は、はい、そう小さく頷く。
「あの時……、お弁当を食べながら英二くんが私のお母さんを誉めてくれて……、それで私、英二くんのお母さんはどういう方ですか?って……」
ん、そう頷いて、その時、母親を尊敬していると言い切った小宮山の嬉しそうな顔を思い出す。
私の目標だって、そうキッパリと言える小宮山をどうしようもなく羨ましく思う。
そっと小宮山の肩越しに見える空に視線を向ける。
ドクン____、大きく闇が侵食してくる。
慌てて小宮山のお腹に顔を埋めて、その細い腰に回した腕に力を込めると、もう一方の手を小宮山に伸ばす。
小宮山の手がオレのその手にそっと添えられて、それから離れないようにしっかりと絡められた。
「小宮山……オレの母親は……クソビッチ」
顔を上げて小宮山に力ない笑顔を向けて呟くと、ボロボロとまた涙が溢れ出る。
そんなオレに、小宮山は大きく目を見開いて、え……?、そう息を飲んだ。