第9章 【キクマルトエイジ】
「そ、そんなことより!あの……アレ、今すぐ消してください!!」
意を決して彼にそう告げる。
その途端、彼の雰囲気がまたガラリと変わるのを感じでゾクッとする。
「アレって……コレのこと?」
そう内ポケットから出した携帯を操作し、あの時の動画を流し始めた彼に、辞めてっと飛びついてそれを奪おうとする。
奪おうとしたところでやっぱりそれは叶わずに、あっさり彼に捕まってしまったのだけれど……
片手で携帯を操作しながら私の腰を抱えて笑う彼の笑顔に、ブルブルと身震いをする。
「……訴えますよ?」
「ふーん……別にいいよん?」
そうあっさり言う彼に、思わず拍子抜けしてしまい、えっ?と聞き返すと、彼は何でもないことのように話を続ける。
「んじゃ、一緒に行く?、職員室?、警察?、あ、親にも言わなきゃねー?」
一緒に……?
そして誰になんて言うというの……?
あんなことを根掘り葉掘り聞かれて、それをしっかり説明しなくちゃいけないなんて……そんなの耐えられないし、親になんて絶対知られたくない……!
それは……、そう口ごもる私に彼はニヤリと笑い、この動画も証拠として提出しないとねー?と携帯を高い位置から私に見せた。
彼の思う壺だ……そう思ったところでどうしようもなく、あの動画がある限り、私は彼に従うしかないんだ……そう思ったらただ泣くしかなくて……
「大丈夫だって、天国に連れて行ってやるからさ、楽しめばいーじゃん?」
そう言って私の首筋に唇を落とす彼を受け入れながら、こんなの地獄よ……そう心の中で呟やいた。
視聴覚室の鍵を閉める音が、私の心に冷たく鳴り響いた。
それはまるで彼の手の中にある見えない監獄に、私を閉じこめた鍵の音のようだった。