第9章 【キクマルトエイジ】
放課後、視聴覚室のドアをこっそりあける。
中は薄暗く人の気配もない。
「菊丸くん……?」
そう呼んでみたけれど、返事もなければ姿も見えない。
教室に彼の姿はなかったけれど、まだここにも来ていないのかな……?
だいたい、放課後っていったい何時よ?そう思ったら腹が立ってきて、もういいや、帰ろう、とドアに向かって手を伸ばす。
「ひっでー、もう帰っちゃうの~?」
そう突然耳元で声が聞こえ、後ろから身体を包まれる。
その突然の出来事に身体が震える。
「イヤッ!やめて!離して!!」
そう全力で暴れながら必死に悲鳴を上げる。
怖くて目から涙が溢れ出す。
「わーっ、わーっ!小宮山、落ち着け!オレだって!シーッ、シーッ、シーッ!!」
そう後ろから口をふさがれ、え?っと思って視線だけ声の方向にむけると、シーッと人差し指を立てて焦った顔をしている菊丸くんが見えた。
落ち着いた……?、そう聞く彼にコクンコクンと首を何度か縦に振って答えると、ふーっ、焦った~と菊丸くんは私の口から手を離し、それからその場にしゃがみこむ。
「つーか、普通、オレだってわかんじゃん、あんなに驚くかよ、傷つくにゃ~」
「き、菊丸くんだって分かってても驚きます!」
自分がしたことを棚に上げて、いったいどの口が言うんですか……!、そう睨みつけて言うと、はは、そりゃそーだ、と菊丸くんは悪びれず笑った。
1人の時はあんなに嫌悪感を抱いていた彼なのに、何故か頬が赤くなるのがわかり、高鳴る心臓にイライラした。