第8章 【イタミ】
……痛い。
身体も痛いが心も痛い。
そしてみんなの視線も痛すぎる。
授業中も休み時間も掃除中も、後ろから突き刺さるような視線を感じて気疲れする。
そんな視線から逃げるように終業のチャイムとともに教室を後にする。
校門を出て生徒の視線から解放されると、途端に身体と心の痛みが何倍にも膨れ上がる。
速く……速く……もっと速く!!!
身体の痛みが許す限り、必死に走り自宅へと急いだ。
なんとか自宅にたどり着くと、慌てて玄関の鍵穴に鍵を差し込み、ガチャガチャと乱暴にドアを開ける。
玄関に入ると急いでドアを閉めてガチャリと鍵をかける。
ドアにもたれ掛かり、その場に崩れるように座り込む。
途端に涙が溢れ出し、身体がガクガクと震えだす。
その身体を自身の両腕で抱きしめると、どことなく菊丸くんの香りがするような気がして、そのまま必死にお風呂へと這うように向かった。
脱衣所で慌てて服を脱ぎ、制服も下着も、全部洗濯機へと放り込みスイッチを入れる。
ふと身体につけられた赤い痕が目に留まり、恐る恐る鏡の前に立つ。
「いやぁ……!」
その自分の身体につけられた無数のうっ血痕は、あの時の菊丸くんとの行為を生々しく思い出させて、慌てて鏡から目をそらした。
シャワーを全開にして熱いお湯を頭からかぶる。
必死に身体中をボディタオルで洗う。
消えて……消えて……お願い!!
あまりにも擦りすぎて身体中が赤くなっても辞められなかった。
洗っても洗っても、その痕は当然消えなかったし、菊丸くんの香りも何故か薄れることはなかった。
シャワーからでてもすぐにその香りが鼻について、慌ててもう一度浴室へと駆け込む。
しばらくその行為を何度も何度も繰り返した。
お母さんが仕事で本当に良かった……シャワーを浴びながらそう思った。