第44章 【ヨフケノケツイ】
「へ……?、なんか言った?」
『いや、英二にしては上出来だね、って言ったんだよ』
よく聞こえなくて聞き返すと、そうまた不二が笑うから、なんか誤魔化されている気もしつつ、ま、いいけどね、そうため息をつく。
「とにかくさ、不二にはちゃんと言っておきたかったからさ……」
『うん、嬉しいよ、英二が人間らしくなってくれて』
なんだよ、それ、今までオレのこと、何だと思ってたんだよ?、そう頬を膨らませると、盛りのついたオスネコ、なんて言って不二はまたクスクス笑う。
なんだよそれー!、そう文句を言いながらも、ま、確かに人間としていろいろ欠陥品だけどね、なんて首をすくめて、それから、ははっと乾いた笑い声をあげる。
「それじゃ、もう寝なって、大切な試合の前に悪かったよ」
『別に問題ないよ、このくらいで乱れるような精神力じゃないからね』
通話終了のディスプレイを眺めながら、不二、本当にごめん、そう呟いてもう一度小宮山の卒業アルバムに視線を向ける。
また小宮山の個人写真を指でなでると、静かに閉じて本棚へともどした。
そっとベッドに腰を下ろすと、疲れきって寝ている小宮山の髪を撫でる。
そのまま小宮山の横に滑り込むと、起こさないように気を遣いながら頭を持ち上げて、再度、腕の中に包み込む。
「小宮山だけだからさ……」
そう眠っている小宮山に呟くと、その後頭部を引き寄せてちょうど唇の高さに触れる髪にキスをする。
「小宮山だけだから……だから小宮山はオレのこと、裏切んないでよね……」
無意識にそう呟いて、裏切るってなんだよ?そう自分に問いかける。
一瞬、心に冷たい風が吹いたような感覚に戸惑いを覚える。
だいたい、小宮山がオレを裏切るはずないじゃん?
こんなにオレのこと好きなんだからさ……、そう自分に嘲笑ってまた小宮山の身体を包み込むと、その甘い香りにだんだんと意識が遠のいていく。
安心するその香りに身を任せて、そのまま意識を手放した。