第43章 【シルシノイミ】
「あのっ、私、大丈夫ですから!こんなの全然、気にしませんから!だからっ、あの……」
そう言葉とは裏腹に、目からは涙が溢れ続ける。
慌ててそれを拭って笑顔を作るも、一学期最終日の英二くんと鳴海さんの様子が瞼の裏に焼き付いて、ますます涙が止まらなかった。
英二くん、私の髪を優しく撫でてくれるように、鳴海さんのあのフワフワの髪も撫でるのかな……?
同じように優しく、それから激しくお互いを求め合うのかな……?
鳴海さんの身体にしるしを付けて、満足そうに笑う英二くんを想像してまた胸を痛める。
なんでだろう?、私、英二くんが私の知らない誰かと何をしていても、割り切れていられたのに……
もちろん凄く嫌だけど、それでも考えないようにしていられたのに……
相手があの鳴海さんだと分かったら、こんなに嫌で嫌で仕方がない……
大丈夫なんかじゃない……
気にしないことなんか出来っこない……
本当は私だけ見て欲しい……
鳴海さんになんて触れて欲しくない……
だけど、そんな叶わない願いをいつものように嘘で固めて、英二くんを失わないためだけに心にもないことを口にする。
「全然平気ですから、すぐ泣きやみますから、だから……」
怒らないで……、ギュッと目をつぶって震える身体を必死に抱きしめた。
しばしの沈黙の後、バクバクする心臓で震える身体を抱きしめる私の耳に聞こえたのは、ガサゴソと荷物をあさる音と、ビリッ、ビリッと何かを破くような音。
英二くん?そう恐る恐る目を開けてみると、彼はバッグからいつもの絆創膏のテープを取り出すと、鏡で確認しながらそれをちぎって肩にペタッと貼り付けていた。
「……英二くん……?」
そっと声を掛けると、英二くんはふーっとため息をついて振り返るから、その様子に慌てて俯いて視線を逸らした。