第43章 【シルシノイミ】
「怒んないよ……」
そっと包み込まれた温もりに目を開くと、英二くんは力ない笑顔で私を抱きしめていて、それから、これはオレが無神経、ほんと、ごめん……、そう私を抱きしめる手に力を込めた。
「芽衣子ちゃ……、鳴海さんとは、本当はそんなんじゃなくてさ」
優しく私の髪をなでながら英二くんは申しわけなさそうに呟いて、それからそっと目を伏せる。
「あん時は……その、小宮山に対してちょっと……だったから、つい……」
そう言いにくそうに言葉を濁しながら英二くんは視線を逸らす。
つい……?そうよく理解できない私をもう一度抱きしめる。
「あの日は小宮山にあてつけみたいになっちゃって……でも、もう一度告られたけど、また断ったんだ……」
だけど、後から偶然あったときに、最後の思い出にって誘われて……、そう申しわけなさそうに事の経緯を説明してくれる英二くんの、その腕の中にそっと頬を寄せる。
私なんかのために英二くん、そんな言い訳しなくてもいいのに……
しるしを避けていつもと逆肩のほうに引き寄せてくれたことも、「芽衣子ちゃん」を「鳴海さん」に言い換えてくれたことも、私へ見せてくれる英二くんの気遣いが嬉しくて……
もちろん、英二くんと鳴海さんに関係があったことはイヤだけど、でも以前だったら絶対ウザがられるところで、ちゃんと私の気持ちを考えたくれたから……
「小宮山、オレに小宮山のしるし、つける?」
思いがけないその言葉に、え?って驚いて顔を上げる。
でも……そう視線を泳がせると、小宮山ならつけてもいいよ?、そう英二くんはまた私をそっと引き寄せた。
それってどういう意味……?
私のしるしって、だって、英二くん、私のものじゃないよ……?
混乱する頭で英二くんを見上げると、目があった彼はもう一度、小宮山ならいいよ、そう小さく呟いた。
そっと英二くんの胸に唇を寄せると、彼が私にするようにチュッと吸い上げる。
うっすらと、本当にうっすらとだけ、桜色の私のしるしが浮かび上がった。