第8章 【イタミ】
キーン コーン カーン コーン
始業を告げる合図に我に返る。
そうだ、泣いている場合ではない、急がなくちゃ……
こんな時ですら、なんの迷いもなく授業に出ようと言うのだから、自分の真面目具合には呆れてしまう。
痛む身体に耐えながら、とりあえず立ち上がり菊丸くんに解かれた髪ゴムとメガネを探す。
髪ゴムはすぐに見つかるも、メガネは何処にも見当たらず、焦ってアチコチ這うように探し回る。
駄目だ、何処にもない……
確かに度は殆ど入っていないし、席も一番前だから、授業に支障はないのだけれど、アレがないと顔が隠せない……
とりあえず先に髪だけ結ぶか……と髪に手を当ててから思い出す。
駄目、菊丸くんにつけられた『しるし』がある……!
慌ててポケットから鏡を取り出して確認する。
こんな薄暗い倉庫内ですら、その赤いしるしは私の白い首もとにクッキリと映えて見えた。
これじゃ、髪を結んだら思い切り注目を浴びてしまう……
どうせ注目を浴びるなら髪を下ろして行った方がまだマシ。
菊丸くん、絶対わざとだ、きっとメガネも……
彼は私に嫌がらせをして楽しいのかな……そう思ってため息をついた。
だいたい、コレ、いったい何の『しるし』よ?
そう思いながら痛む身体を引きずるように、体育倉庫から抜け出すと、教室へと向かう。
……酷い顔。
途中のトイレで鏡を見ながら身なりを確認する。
明らかに分かる泣きはらした顔を少しでも何とかしようと顔を洗う。
下を向いた途端、ウッとえづいて慌てて口をゆすぐ。
フーッと大きく息を吸って、まだダメ、学校ではダメ、そう自分に言い聞かせる。
目を閉じてゆっくり深呼吸し、心のスイッチを切り替える。
そして何でもない顔をして教室へむかうと、そのドアを開けた。