第8章 【イタミ】
どうしよう……
あんな動画撮られていたなんて……
不覚にも目の前で構えられていた携帯に全く気がつかなかった……
彼が去った後も、そのショックからその場にしゃがみこんでいた。
ふとマットに着いた透明な染みと赤い染みが目に留まる。
このままにして置くわけにはいかない……
でもこんなの先生に報告するわけにもいかない……
せめてもの気休めにハンカチでそれを拭うと、目からこぼれ落ちた涙がそこに新たな水痕をつけた。
酷いよ、菊丸くん、こんな無理矢理……
喜んでいた?そんなはずないじゃない……
どうしてそんなことも分からないの……?
菊丸くんの教室で見せるあの明るい笑顔を思い出すと、ギューッと胸が締め付けられるように痛んだ。
好きだった……
憧れていた……
いつも笑顔で、素直で、天真爛漫で……
クラスの中心にいる彼が、
みんなに好かれている彼が、
眩しかった……
こんな私にもみんなと変わらぬ笑顔で、毎日おはよーって挨拶してくれるのは、
菊丸くんだけだった……
見せかけだった……
上辺だけだった……
私が見ていた菊丸くんは、全部笑顔でカモフラージュされた
偽物だった……
私が菊丸くんを好きだから?
あの女の人と同じようにボランティア?
それが優しさ?親切心?
違うよ。
違うよ、菊丸くん……
好きな人にこんな形で抱かれるなんて……
こんなの一番辛すぎるよ……
……っく……ひいっく……
今度は堪えきれなくなった私の泣き声だけが倉庫内に響いた___