第42章 【イエジ】
小宮山……大丈夫かな?
玄関で急いで靴を履き、足早に公園へとむかうと、小宮山はベンチに座りながら空を見上げていた。
辺りをオレンジに染める夕焼けは小宮山も同じように包み込み、風がそのサラサラの髪を揺らす。
普段の黒髪が日の光に透かされて、金茶に光ながらなびく様子に目を奪われる。
それをそっと耳にかけながら、制服よりだいぶ短いスカートの裾を気にしてピッと延ばす、その小宮山らしい仕草にドキッとした。
小宮山ってほんと、きれいだよな……
黄昏を彩るヒグラシの鳴き声に耳を傾けながら、また顔を上げてどこまでも遠い空の向こうを眺める、その小宮山の様子から視線を反らせなくて、しばらくその横顔を眺め続けた。
ふと小宮山が人差し指で目尻を押さえ、それから自分の身体を抱きしめながら縮こまる。
そうだって、ぼーっとしてる場合じゃないじゃん!、そう我に返り、すーっと大きく息を吸いこんで、小宮山♪、なんてわざと声を弾ませてその名前を呼ぶ。
するとハッとして凄く嬉しそうな顔をでこちらを見た小宮山は、それから目を見開いて、大五郎、連れてきたんですか……?、そう柔らかい笑顔を見せた。
ねーちゃんは「持って」と言った大五郎を、小宮山はオレと同じように「連れて」と表現したことが、ただそれだけのことなのに、なんか胸の奥がくすぐったくて嬉しかった。
「連れてきたよん~♪、ほいっ、抱っこ、抱っこ!」
「え……?でも……」
そう大五郎に触れるのを躊躇する小宮山に、ああ、オレが誰にも触らせないこと、不二にきいたんだな?、なんて思いながら、はーやーくー、そう頬を膨らませる。
いいんですか……?、そうオレの顔を伺いながらもう一度確かめる小宮山に、そう言ってんじゃん?なんて言ってニイッと笑う。
恐る恐る受け取った小宮山は、ギュッと大五郎を抱えると、英二くんの匂いがする……そう小さい声でポツリと呟いて、それから慌ててオレを見て、恥ずかしそうに赤い頬を大五郎のおなかに隠した。