第42章 【イエジ】
「旅行ってわけじゃないよん、いつものように大石んちだって!」
そうなんでもないことのように笑顔を作ると、急いで荷物を詰め込みながら、よっと立ち上がり肩からバッグをかける。
「大石くんの家って、その荷物……何泊するつもりよ?」
「……一週間くらい?」
そう、気まずくて視線を逸らしたオレに、はあ?なに馬鹿な事言ってんのよ!?、そうねーちゃんは呆れた声を上げる。
「そんなの、迷惑に決まってんじゃない!やめなさいよ!」
「大丈夫だって!大石、オレのこと大好きじゃん?」
「いや、私、腐女子じゃないから、その冗談、喜べないし」
そうため息をつくねーちゃんに、他の奴らの家にも行くし、なんて適当に話を作って笑顔で誤魔化す。
「ダメダメ!あんた、夏休みになってから、全然勉強してないじゃない、宿題すら手付かずでしょ!?」
「だ、だから、大石に教えてもらうんだって、オレ、一人でやったってわっかんないもん」
ほらー、やっぱ面倒なことになった……
小宮山、連れてこなくて正解だったな、そう思いながら、んじゃ、もう行くねー、なんて言って部屋を出ようとすると、ちょっと待ちなさいよ、そう言ってねーちゃんはオレのバッグをグイッと引っ張る。
「なにすんだよー、まだなんかあるっての?」
「宿題、持ってくんじゃないの?」
そう呆れながら腕を組み、机の上に放置したままのまっさらな宿題の山を指差しながら、ねーちゃんは疑惑の目つきでオレを睨みつけた。
「はは、そう……宿題、宿題、忘れてたー……」
教えてくれて、ありがとねん、そう乾いた笑いをあげながら机の上の宿題も詰め込むと、一気に荷物が重くなり、ちぇー、ねーちゃんのバカ!なんて思いながら頬を膨らませる。
それからふと目に留まった大五郎……
んー……と考えて、よっと抱えると、じゃーねー、そう言って今度こそ部屋を出る。
なに、大五郎持ってくの?そう驚いた声を上げるねーちゃんに、もち、連れてくよーん、そう言って笑顔で手をふった。