第42章 【イエジ】
空港から電車に乗って光丘にむかう長い道のりの間、英二くんは沢山の話をしてくれた。
私に何度も謝ってくれて、それから、彼が倒れたあの日、不二くんに助けを求めたこととか、一方的に置いてきたその日のノートが役に立ったことにお礼を言ってくれた。
あんまりいっぱい謝ってくれるから、逆に申し訳ない気持ちになるし、私がしたことが英二くんの役に立ったと思うと、すごく嬉しくてくすぐったかった。
それから学校や家庭の、たわいもない日常の話の間、英二くんはずっと私の手を握ってくれていて、私も英二くんの話を聞きながら、ずっとその肩に寄り添っていた。
自販機で飲み物を買おうとお財布を手にするためや、改札を抜けるために、ほんの少しの時間ですら英二くんの手が離れるとすごく不安で……
ナオちゃん達がまだすぐ近くにいるんじゃないかとか、英二くんがまた私から離れていってしまうんじゃないかとか……
そんな風に思ってしまい、不安に心臓が押しつぶされてしまいそうで……
並んで座る電車の中、その振動に合わせてぶつかり合う膝を眺めながら、決して離れないようにしっかりと絡め合った指に力を込めていた。
「小宮山、オレ、荷物とってくるからさ、その間ここで待っててよ」
英二くんの家の近くまでくると、以前、不二くんと並んで座ったベンチの前で英二くんは私にそう声をかけた。
「うち、放任主義だけどさ、流石に小宮山んちに泊まるってばれたら、あのねーちゃんとかーちゃんがうるさそうじゃん?」
そう言って苦笑いする英二くんに、あの時の強烈なお姉さんとお母さんの様子を思い出して、確かにそうかも……なんて思うんだけど、そうは思うんだけど……
「んな顔すんなって、すぐに戻ってくるからさ?」
え?っと見上げた英二くんは私を苦笑いで見下ろしていて、そんな私の両頬に手を添えるとおでこ同士をコツンとする。
「……顔に出てました?」
「うんにゃー、すげー、泣きそう」
ごめんなさい、思わずまた謝りそうになり慌てて口をつぐんで精一杯の笑顔を見せた。