第42章 【イエジ】
「あの……、英二くん……」
そう私を優しく抱きしめてくれる英二くんの顔を見上げて、そっとその名前を呼ぶ。
ん?って返事をしてくれた彼に、口を開きかけて、なんでもないです……そうその先の言葉を飲み込んだ。
こんなこと頼んだら、英二くんに怒られるかな……?、そうさっきから何度も頭の中で繰り返しては、こっそりと見つからないようにため息をつく。
やっぱり私から頼みごとなんか出来ないよね……
今日の英二くんは凄く優しくて、私のことを本気で守ってくれたけど、それでも今までの英二くんとの事を思い出すと、どうしても自分の言いたいことなんか言えなくて……
『小宮山は黙って、オレに呼び出されんの待ってればいいんだよ……』
そう屋上で吐き出された冷たい言葉を思い出して、ギュッと胸を痛ませる。
調子に乗ってまた怒られたら嫌だもの……
やっと抱きしめてくれた手をもう失いたくなくて、英二くんの背中に回した手に力を込めた。
「……小宮山、ちゃんと言って?」
え……?そう思って顔を上げると、英二くんは困った顔をして私を見ていて、なんか言いたいこと、あんだろ?そう言ってそっと私の髪をなでる。
あ……って思って、あの……そう口を開いて、それからまた戸惑って……
もう一度、英二くんが、ん?って優しく微笑んでくれたから、あの……、一緒に寝て貰えませんか……?そう意を決して声にした。
「へ……?そのつもりだけど……?」
そう目を丸くして英二くんが苦笑いするから、ハッて思って、ち、違います、そう慌てて首を振ってそれを否定する。
これじゃあ、ただ誘ってるだけになっちゃう!
そう気が付いたら恥ずかしくて、なんで私ってこうなんだろう……そう両手で顔を覆って首を横に振る。
そんな私に英二くんは、大丈夫だからもっかい言ってみなって、そう言って優しく笑いかけてくれた。